2010年04月

山尾悠子作品集成

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こんばんは、三頌亭店長です。今日のお題は山尾悠子です。山尾悠子というと三頌亭は高校生から大学生にかけて読んだ作家で大変懐かしい方です。で、最近はどのようなイメージ捉えられているのかしらということで、ネットで少し評判を読んでみました。熱心なファンの人がおられるのかすごい書き方で絶賛されていて、少しびっくりです。ほとんど、「神」ですねえ(笑)。

70年代から80年代にかけて発表された山尾悠子作品のほとんどを収録した集成が、国書刊行会から出た「山尾悠子作品集成」です。解説で野阿梓さんが山尾悠子の作品群をこのように要約しています。「山尾悠子・・・その固有名詞は、私にとって、一九七〇年代という、懐かしい玩具箱を引っくり返したような、さまざまなことがらを濃密に凝縮して、結晶化させたものに等しい」。なかなか上手い表現だと思います。

三頌亭の持つ山尾悠子作品のイメージも野阿梓さんのものとそう大きくは変わらないのですが、今回大分の作品を再読して思うことは、やっぱりその年齢その時代でないと書けなかった作品というものがあるなあ・・ということでした。現在、彼女の文体は「硬質な結晶のような文体」etcなどと評されることが多くなってしまいましたが、そんなことは少しもなくて極めて読みやすい文体で書かれていると思っています。なぜかというと、初期の山尾作品は70年代のサブカルチャーや文学の流行を少ない情報の中からかき集めた大学生が精一杯背伸びをして書いたものだからです。当時はネットなんかなかったので少しの事を知るのに大変苦労をいたしました。しかし、山尾作品において読者はバックグラウンドを知らずとも「言葉で描かれたタブロー」を驚きをもって楽しんでいればよいのであって、あまり難しいことを考える必要はありません。

「山尾悠子作品集成」はもう10年も前に出版された本ですが、現在も版を継いでいて、これで確実に彼女の作品は残っていくことでしょう。願わくば大変高価であるので軽装版でも出してはくれないものでしょうか?。全700頁強という内容ですが、三頌亭が最も気にいった傑作選を出すなら、早川書房で出版された「夢の棲む街」あたりが第一候補ですね(笑)。古書ではまだ時々見ます。

高木貞治「近世数学史談」

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こんばんは、今日はこのような本でも紹介いたします。日本で最初の国際的数学者・高木貞治による近世数学史のロマンスを描いた、「近世数学史談」です。高木貞治といえば「解析概論」や「初等整数論講義」などに親しんだ方もいるかと思いますが、三頌亭は彼の自由闊達な文章は非常に特徴があってなかなかの名文だと密かに思ってまいりました。この「近世数学史談」は高木貞治が「数学史上の奇観」と呼んだ時期、つまり近世から現代への数学の橋渡しの時期に現れた数々の数学者のなかなからもっとも傑出した何人かの人物に焦点を絞ったエッセイです。神の如き数学の天才ガウスからはじまって、よく知られたアーベルやガロアの悲運の生涯まで数学史上の業績を要領よく解説しながらの名調子は他の科学史には見られない面白さがあります。

https://www.toyokeizai.net/life/column/detail/AC/a266411279a5e802daf257b78371a5b8/

補足といたしまして、有名なインフェルトの「神々の愛でし人」をあげておきましょう。創作的評伝、現在伝わるガロアのイメージを決定付けた名著と言っていいのでしょう。古くは筑摩書房の世界ノンフィクション全集の抄訳が収められて現在に至ります。作中、ガロアが決闘の前日に自分の理論の要約を時間が無いといって書き継ぐ様には大変インパクトがあります。私は彼の自筆を見たことがありません。どこかの美術館が「著名数学者直筆展」なんかをやってくれるといいなとよく思うことがあります。

追記:これらの作品は数学の知識がなくても面白く読めます。

最新入荷他

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こんにちは、三頌亭店長です。今日はとりたててないので最近入った本とかを紹介いたしましょう。ヤングの短篇集が入りました。多分彼の一番よく知られている短篇集だろうと思います。今まで読んだものもいくつか入っていますが、2/3くらいは未読作品です。値段をケチったら保存がよくないのが来てしまって少し残念です(笑)。読むだけでいいという方はこちらでどうぞ。
http://www.megaupload.com/?d=8XN6ID83
冒頭から2,3篇読んでみましたがの「時を止めた少女」というのが少し面白かったです。ある星からお婿さんを捜しにやってきた少女と主人公の青年のコメディです。因みにハッピーエンドですね(笑)。

次は平山蘆江の「続・左り褄人情」 です。正編のほうは読んだことがあるので、続編の方を入手してみました。岡倉書房の本はなんとなく好きでいろんなものを買っていた時期があります。洋装本なのですが、箱と共に和紙の木版装の本で今ではこんなものを作るのは願っても無理な時代になってます。「花柳随筆」というか、芸者さんのたわいもないお話を書いてるのですが結構面白いです。怪談なんかも2,3入ってますね。ところで最近復刻された岡倉書房の「蘆江怪談集」って案内には出てるのですが今まで一度も見たことが無いです。和装本らしいです。

多島斗志之「<移情閣>ゲーム 」&「離愁」

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こんばんは、三頌亭店長です。今日は多島さんの作品を2つ紹介いたしましょう。どちらかというと日本ではあまり人気のないジャンルの書き手かなと思わせるところが多かったので、最近のミステリーファンの読者からはあまり注目されてなかったと思います。

「<移情閣>ゲーム」
多島さんの初単行本です。国際謀略小説。かなりのトンデモ本です(笑)。移情閣というと関西の方にはある程度なじみがあると思いますが、ご存じない方は下記をごらんください。
http://sonbun.or.jp/jp/
鄧小平と蒋経国を握手させようというとんでもないプランを実行に移そうとする主人公に降りかかる様々な難問。はてさてその首尾や如何?。それと同時に明かされる歴史の暗部には虚々実々の面白さがあります。よく出来たエスピオナージュものといったイメージで、純粋に演繹で解かれる本格ミステリーなどでは決してないのですが、物語としての面白さはたいしたものです。綾辻・有栖川コレクションでやっと復刊されました。以前は文庫にはいっていて「龍の議定書」という題になっていました。

「離愁(旧題:汚名)」
これは多島さんの比較的最近の作品。見た目よりかなり文章は苦労してあります。甥っ子達が解き明かす叔母・藍子の秘密の生涯。宮部みゆきさんの「火車」や清張の「砂の器」に近い面白さを狙ったものといえばわかりやすいかもしれません。この作品もまた広義のミステリー的興味が中心にあると思われます。時期外れの「昭和のミステリー」。叔母・藍子のキャラクターの造形なんかはあまりはやらなくなったものではないでしょうか?。案外、最近風のキャラクターが特高刑事の鳴瀬警部補ですね。現在のものさしでばっさりやってしまうかどうかは、ひとによるでしょうし、物語のどこに注目するかによって面白さは変わることでしょう。三頌亭は結構楽しめたのですが、皆様はいかがでしょうか?

リイ・ブラケット「長い明日」他

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こんばんは、三頌亭店長です。今日も適当にそのあたりに積んであったものから、まだ話題にしてないものを紹介いたします。まずひとつがリイ・ブラケットの「長い明日」です。昨今、終末テーマSFというと評判がいいのか悪いのかよくは知らないのですが、かつてこぞって書かれた時期がありました。「渚にて」や「レベル・セブン」などと並んで、ブラケットの「長い明日」も核戦争後のアメリカで起こる地方分散化を少年の成長にのせて描いた終末テーマSFです。核戦争後の科学と宗教の対立を全く異なる考えをもつ少年と少女の恋に織り込んだところに独特の面白さがあります。この前、「成長の儀式」をとりあげたので、女性作家の書いた少年の成長物語ということで紹介しておきます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88

次はカーの「五つの箱の死」ですね。カーは徹頭徹尾エンターテナーです。観客が望めば綱の上で3回宙返りでもやろうとしてくれます(笑)。この作品は超難度のトリックに挑戦して失敗した作品です。おそらくマニアの方しか読まないんではないかと思ってきました。カーの有名作はだいたい読んだという人にお薦め。最後までお読みになって、「作者の意図が奈辺にありや?」、気がつかれたときの驚きをお楽しみになってください(笑)。
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