2009年07月

小池壮彦「幽霊物件案内2」&木原浩勝・中山市朗「新耳袋4」

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。また性懲りもなく実話系怪談です(笑)。素材をいかに料理するかというのが文芸の勘所だろうと勝手に思っているわけですが、これらの実話系怪談はできるだけ素材の面白さのみで勝負しようというまったく逆の方向へ出来ています。といったしちめんどくさいお話はさておき、今日は実話系最恐との呼び声の高い大ネタを2つ紹介いたしましょう。

さて1つは、怪奇探偵こと小池壮彦さんの大ネタ「封印された旧館に纏わる話」です。「幽霊物件案内2」の最後第9章に丸々これがとりあげられています。ある風光明媚な観光ホテルに使われなくなった山の上の旧館があるわけですが、これに纏わる気色の悪いお話ですね。いやー、なかなか効きますよ~(笑)。憑依の連鎖とでも言いましょうか、とにかく気持ちが激悪ですね。

もうひとつは実話系怪談のブランドネーム、木原浩勝&中山市朗さんの「新耳袋」から第4夜の第12章「山の牧場」です。これもその筋では有名なお話らしくて、木原浩勝さんの体験談です。これは少し変り種で、日本版MIBとでもいいましょうか?。少しふしぎな話に近いのですが、読んでいるうちになんかどんどん気味悪くなっていくという代物です。余談ですが、同じ巻に収録されている「八甲田山」も非常に恐い怪談です。

板谷菊男「天狗童子」

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。今日は板谷菊男氏の「天狗童子」を紹介いたします。板谷菊男氏唯一の短篇集で全く無名の人です。この著作を知ったのは翻訳家の南條竹則氏の著作からです。板谷菊男は陶芸家として有名な板谷波山の長男で開成学園の古文の先生でした。その教え子には南條竹則氏や故吉村昭氏がいます。この短篇集は自身が親しんだ古今著聞集にインスパイアされて出来た幻想短篇集です。雑誌「幽」の創刊号にこの短篇集から「竹生島」が再録されましたが、他はほとんどとりあげられたことがありません。独特の雰囲気をたたえた著聞集風の怪異譚が15編ほど収録されています。おそらく今このようなものを書けといわれても書くことのできる方はいないでしょう。残念なことに70年代に出版されたこの本はもうほとんど眼にしない本になってしまっています。古書価が高いわけではないので余計始末が悪いですね(笑)。心ある出版社に再版をお願いしたいほんのひとつです。

古今著聞集に惹かれる理由を板谷菊男氏は次の様に説明しています。三頌亭も最近になってなんとなくよくわかることが多くなりました。

「わたくしは、生来古典が好きであった。また古典に結びついているものは、何でも好きであった。それが老年になるとともに、源氏物語とか枕草子とかの本流的な作品よりも、今昔物語以下の傍系的な説話物の方が、好ましくなってきた。その理由はよくわからないが、たとえば、精巧華麗な工芸品を博物館の飾り棚で見るより、下手物の皿を身辺に置く方が気軽で楽しいといったようなことになるのかもしれない。
さらに、年齢が加わってきたら、結局説話物は、古今著聞集に絞られてしまった。その理由は、今昔物語や宇治拾遺物語の著者は、文才に恵まれているから、書かれたものには文学的意図がひらめき、精緻な描写が盛り上がっている。読者は、ただそれに引かれる。
著聞集の著者は、それとは異なり、古今にわたる多数の資料を集積し分類して、単純素朴な報道的記述で、あの膨大な一部にまとめ上げた。つまり主観を最小限度にとどめて、専ら第三者の批判と利用にまかせている。その淡々とした態度が好ましい。わたくしたちは、朝の食膳で新聞記事に眼を通すように、馬芸とか相撲とか博奕とか怪異とかの興味の多い項目の変化を追って、気分を慰めることができるのである。」

最新入荷(「水平線(地平線)の男」)

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。最近入手した本の紹介です。洋書はスケジュールが詰んでいてまだ読んでいません(笑)。東京創元社の文庫創刊50周年フェアからは漏れたようなので入手してみました。ヘレン・ユースティスの「水平線の男」です。故瀬戸川猛資がブックマンの特集でえらく褒めていて気になっていた本です。そのころはまあよくあるタイトルだったのでほおっておいたらいつのまにかえらい入手がしにくいものになってしまいました。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作でヘレン・ユースティスはこれ1冊くらいしか目立った著作がありません。どうやら内容はクリスティの超有名トリックの変形らしいですが、クラブ賞受賞作ということでそれなりのひねりはあるのでしょう。まあ今の読者にはどうか?といったところなのですが、面白さはトリックだけではないので楽しみにしています。

因みに翻訳のほうは下記のようになっています。ネットでの評判では創元推理文庫ものの翻訳があまりよくないということですが、多分カサックなどと同じ事情でしょう。別冊宝石のほうは題名が「地平線の男」となっているのでご注意を。とりあえず大変入手が難しい状況です。PBのほうは古典作ということでペンギンをはじめいろんなレーベルのものがあり、むこうでは1ドルくらいから入手が可能です。

『水平線の男』山本恭子訳(創元推理文庫:1963)
『地平線の男』久里瀬いと訳(別冊宝石119号 世界探偵小説全集51:『アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作特集』:1963)

追記:東京創元社 最新復刊決定11タイトル。アームストロングがよんでませんね~(^^:)。
『幽霊の2/3』ヘレン・マクロイ/駒月雅子 訳
『エンジェル家の殺人』ロジャー・スカーレット
『アーカム計画』ロバート・ブロック
『ギルフォードの犯罪』フリーマン・W・クロフツ
『思考機械の事件簿(1)』ジャック・フットレル
『スポンサーから一言』フレドリック・ブラウン
『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン
『永遠へのパスポート』ジェームス・G・バラード
『死の迷路』フィリップ・K・ディック
『犯罪文学傑作選』エラリー・クイーン
『あなたならどうしますか?』シャーロット・アームストロング

福澤徹三「怪を訊く日々」他

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。今日は実話怪談を適当に見計らってだしております。実話怪談は怪奇小説の愛好家が最後に行き着く場所などといわれることもあります。今日のものは国産品、もう怪しさ爆発です(笑)。実は三頌亭、実話怪談ついてはなかなかこれといったスタンスをもてずに今まできております。たとえばミステリー小説に対して犯罪実話というのとは全然違う感覚といっていいでしょうか?。かならずある種の胡散臭さがつきまとうのでありますが、民話の蒐集をするように現代の奇談を蒐集してもよいではないか?とも思うわけです。この件に関してはまた折りを見て記事にしたいと思います。

で今日の紹介作品はまず福澤徹三さんの2冊、「怪を訊く日々」と「黒本―平成怪談実録 」です。この人の本はあんまり書き手(聞き役)を感じさせない文章でこれが素晴らしいです。ことさら怪異を仰々しい言葉で書くわけではなく、感じがいいですね。福澤徹三さん取材の2冊どちらもよろしいです。あまりこういうのはという人の実話怪談入門用にいいだろうと思われます(笑)。

次は新人の方、安曇潤平さん。山にまつわる実話怪談「赤いヤッケの男 山の霊異記」。自身も山に登るのでしょう、よく取材してあるように思います。救いのない恐さというよりも一抹の哀切さがある怪談が多くてお勧めです。内容に比して表紙があまりのも恐いのが残念です(笑)。

さて最後は「新耳袋」の中山市朗さんの大ネタ「なまなりさん」。胡散臭さもトップクラスながらこの4冊の中でもっとも恐い作品です。長編の実話怪談で恐さも横綱級です。上記3冊で物足りないという方はどうぞ(笑)。


出版社紹介:「怪を訊く日々」
『 作家の手によって息吹を与えられた怪談たちは、淡々とした筆致ながら、まるで一篇の短編小説のような味わいがある。とくに福澤自身の体験を物語った「祀られた車」や、叔父の見た不思議な夢の話「小指をくれ」などは、余分な装飾を削ぎ落とされた文章のひとつひとつが、じわりと読み手に恐怖を感じさせる珠玉の怪談といえるだろう。怪談随筆集といった趣の本書は、新たな怪談文学の萌芽を予感させるものである。(中島正敏)』

出版社紹介:「赤いヤッケの男 山の霊異記」
『怪談実話の新鋭が放つ、山にまつわる怪異譚集。
「夜の山に独りで入っていくような怖さ」加門七海
「山の怪談ってのは本当に凄い。どんぶり飯の三杯はいける!」平山夢明。
数々の顔を持つ日本の山にまつわる怪談奇談を集めた本である。作者自らが体験した話もあるし、山仲間や、あるいは一杯やりながら山小屋のオヤジから聞いた話もある。怪談というと、身の毛もよだつ話を想像しがちだが、不思議なことに山の怪談には、聞き終わって心が温かくなる話も意外と多い。この本にもそんなホロリとさせる話もいくつか載っている。この本を手に取り、そして数々の不思議な話を読んだ後に、みなさんが日本の山を、今よりもっと好きになってくれれば幸いである――序文より。『幽』2号で鮮烈デビューした山男・安曇潤平による山の怪異譚。実際に登山して訊いた体験談をもとに、山の描写を豊かに盛り込み、淡々とした語り口で、山という異界を描く。ネット出身の新人怪談作家による待望の短編怪談実話集。』

出版社紹介:「黒本―平成怪談実録」
『キャンプで目撃した樹上の女。現代に起きた神隠し。不審な水音が響く男子寮。いきなり動き出す猿の玩具。銀色に光る謎の飛行物体。住む者に不幸をもたらし続ける家。そして、背筋も凍る体験で知られる峠―。怪談蒐集をライフワークとする作家が、様々な人びとから聞きとった、世にも怖ろしい話。あなたが決して見てはならぬもの、決して聞いてはならぬ音がある。文庫書き下ろし。』

出版社紹介:「なまなりさん」
『これは、二日間にわたって語られた採録である――
祟りは存在するのだろうか
『新耳袋』中山市朗の新境地。
『新耳袋』完結後、中山市朗が蒐集した壮大な長編怪異体験談。二日間にわたって語られた、“なまなりさん”を巡る怨念や祟り。祟りとは本当に存在するのだろうか? 目の前で起こる信じがたい事実……。全編を体験者が語る、怪談文芸の新境地。』

セバスチアン・ジャブリゾ

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。ミステリーもお国柄で好まれるものが大分異なるようです。いまから6,7年前だったでしょうか?。「All she was worth」と「The Tokyo zodiac murders」という本が英語圏で出版されました。日本の傑作ミステリーですが、どの本だかわかりますでしょうか?。「火車」と「占星術殺人事件」です。海外での評判を読んでますと面白いという方もいるようですが、全くうけてないというのが実情です。横溝正史なんかも結構いいところが英訳されていますが、こちらも話をききません。対してあわやその年のエドガー賞というところまでいったのが、桐野夏生さんの「OUT」でした。Googleでヒット件数を見てみると、桐野>宮部>島田となってます。日本はこんなに英米ミステリーを輸入しながら、何でだろうと少し思うことがあります。

ところでフランスのミステリーというとこれがまた少し趣が違っておりまして、所謂パズラーという方がほとんどいません。文学味豊かといえばいえなくもないのでしょうが、ことさら人間の暗部に光を当てた作品が多くて閉口することもしばしばです。しかし人間描写については面白いものも多いので、翻訳数は少ないのですが、今まで三頌亭は折りを見て地道(笑)に読んできました。そのなかでも比較的好みのものがセバスチアン・ジャブリゾの作品です。以前はいくつかあった翻訳もいまは「シンデレラの罠」くらいになってしまいました。あんまり使われすぎていまでは新鮮味が少しなくなりましたが、この手のもののオリジナルです。他にもいくつか秀作はあるのですが処女作の「寝台車の殺人者」を推薦しておきます。余談ですが有名なフランスのスリラー映画に「顔のない眼」というのがありますが、「シンデレラの罠」という作品はこれをヒントにつくられたのだろうか?と時々思います。
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