2009年04月

戸川昌子「ソドムの罠」&「蜘蛛の巣の中で」

イメージ 1

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。いくつか紹介してまいりました戸川作品の落穂拾いです。主には短篇集を紹介していこうと思うのですが、最も入手しやすいのは双葉文庫のものです。最も収録数が多いシリーズは東京文藝社が70年代初期に出版した6冊の短篇集成ですが、全て入手するとなるといささか難しいかもしれません。現在新刊で入手できるものは未知谷の昭和の短編シリーズの一冊のみというのが少し寂しいのですが、時の流れで仕方ないでしょう。なかなかぶっ飛んだ心理サスペンスが冴え渡る(笑)戸川作品ですが、求めて読む人も少なくなった今、一まとめでどこか出してくれないものかと思う三頌亭です。写真の作品集の収録内容は以下の通り。

戸川昌子「戸川昌子傑作シリーズ・ソドムの罠」(講談社:1965)
「ソドムの罠」
「吹溜り」
「こんな女」
「疑惑のしるし」
「金色のかつら」
「砂にかいたラブ=レター」
「左手のための協奏曲」
「別離旅行」
「殻が割れた」

戸川昌子「蜘蛛の巣の中で」(青谷舎:2000)
「視線」
「闇の中から」
「骨の色」
「鴨と葱」
「傘が開く」
「二重の罠」
「蜘蛛の巣の中で」

アーネスト・ダウスン

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。南條竹則さんといえば英米怪奇小説の翻訳家であり、ファンタジーノベル大賞をとった「酒仙」をはじめとする小説家であります。この人の初心というか、英文学関連の著作がダウスンに関するもので、今日紹介する「悲恋の詩人ダウスン」は本邦でははじめてのダウスンの評伝です。三頌亭がダウスンを知ったのは矢野峰人の「世紀末英文学史」を通じてであり、学生時代ゾッキ本がたくさん出ていた牧神社の赤と青の2巻本を読んだ時からでした。でそのときダウスンの翻訳を捜したのですが、これが意外に見つからず出てきたのは南雲堂の「対訳・ダウスン」(小倉多加志)でした。幸いなことにダウスンの英文と邦訳に接することが出来ました。その後、市立図書館で平井呈一のダウスンの小説全集「ディレムマ・その他」(思潮社)を読むことが出来ました。

ダウスンの小説を評して平井呈一は「小説の秋」といいましたが、まったくそのとおりで、微妙な陰翳に富むその表現は日本人には受け入れやすいものでしょう。佐藤春夫や西条八十をはじめとして、数々の名訳に恵まれているのもそれゆえといえなくもないかもしれません。初めて三頌亭がダウスンの英文を読んだ時にその連綿たる英文にびっくりした憶えがあります。ちょうど私がよんでいたころ、南條さんはすでにダウスンの訳詩集を私家版で出していたというから驚きです。中学生のときから作曲家のディーリアスを通じてダウスンを知り、相当入れ込んでいたらしいです(笑)。

評伝と対になったように岩波文庫から南條さんの翻訳で「アーネスト・ダウスン作品集」が出ています。興味のおありの方は読んでみられるのもいいでしょう。現在にあっては非常に苦心した翻訳です。ダウスンの翻訳は矢野峰人、関川左木夫、平井呈一、火野葦平、佐藤春夫、西条八十など名だたる文人達の翻訳があり、文語体を自在に操る彼らを相手にして、南条さんや三頌亭の年代の人では残念ながえらどうやっても敵いそうな気がしません。語彙力や表現の違いといってしまえばそれまでですが、ダウスンと同時代の翻訳家たちの素晴らしさというのを再認識した次第です。特に詩の翻訳においてはそれが顕著で、南條さんも絶唱「シナラ」の翻訳はどうしても上手く出来ないのでということで、解説において矢野峰人の訳詩を提示しています。


南條竹則「悲恋の詩人ダウスン」より
『プロローグ――究極の詩人――
読者よ、あなたがアーネスト・ダウスンという詩人の名を知らなくとも、「風と共に去りぬ」という言葉はきっと御存知だろう。これはマーガレット・ミッチェルの小説の題名で、映画化されて有名になったが、じつは、ダウスンの詩からの引用なのだ。

もうひとつ、「酒と薔薇の日々」という言葉も、どこかで聞いたという方が多いのではあるまいか。これもダウスンの詩の一句で、ブレイク・エドワーズ監督、ジャック・レモン主演の映画「酒とバラの日々」(一九六二)の題名に使われた。

「風と共に去りぬ」の出典であるダウスンの「シナラ」は、それ自身、キング・ヴィダーの映画「シナラ」(一九三二)の題名になっている。これはH・M・ハーウッドとR・G・ブラウンによる同名の劇に基づくもので、筋はダウスンと直接の関係はないが、「アーネスト・ダウスンの不滅の詩句に霊感を得た」という断りの文句とともに、「シナラ」の繰返し句が冒頭のスクリーンに映し出される。

このように、「シナラ」はかつて英米ではよく知られた作品だった。そして作者ダウスンの名も、人々の耳に親しかった。「アーネスト・ダウスンは究極の詩人だった」と彼の最新の伝記を書いたジャッド・アダムズは言う。なんとなれば、彼の人生は貧苦と悲恋と不治の病と、そして酒とに彩られていて、まさに“不幸なる詩人”の典型だったからだ。

 詩人はみな不幸だと、あなたはおっしゃるかもしれない。そうだ――ある者は悲恋に泣き、ある者は酒に溺れた。狂気に取り憑かれた者も、政敵に街を追われた者も、汨羅の淵に沈んだ者もいる。だが、貧困と悲恋と不治の病と酒と、四拍子そろった人は歴史上いくばくかある? ダウスンとよく似た境遇におかれた詩人として、しばしば比較されるのはジョン・キーツである。キーツはかなわぬ恋と肺病、そして批評家の攻撃に苦しんだが、酒飲みではなかった。しかも、彼はデカダン詩人ではなかった。

ダウスンが“究極の詩人”であるもう一つの理由は、破滅に向かう彼の人生が、倦怠と絶望を歌うその詩と見事な諧調を奏でていることにある――彼の作品は人を裏切らなかった。ダウスンは、しかし、究極の詩人ではあっても、大詩人ではなかった。だから、彼の作品の翻訳は日本で何冊か出たけれども、彼自身について書かれた一冊の書物というものは、まだない。わたしはそれを書いてみようと思う。もとより紙数に限りがあるから、本書は彼の“評伝”と言えるようなものではない。わたしはただダウスンの悲しい一生を、しばらく読者と共にたどって、彼の詩を口ずさもうと思うのである。 (…この続きは本書にてどうぞ)』

天城一傑作集

イメージ 1

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。最近、久々に古書カタログから二つほど注文したら、二つとも外れてしまいました。残念です。由良君美と富士川英郎の原稿で新刊の単行本並の安さだったものですからついつい期待したのですがダメでした。というわけで腹いせに買った本です(笑)。日本評論社の天城一傑作集の第3巻と4巻です。めでたく遂に完結で、内容としては充分全集に匹敵する収録状況ですね。今回の2巻分は長編3作品が目玉でこれは今まで読んだことがないです。ブログの内容をみられてお分かりかと思いますが、三頌亭は天城一の短編があまり好きではありません(笑)。理由は簡単で少々チキンの本格ファンだからであります。長編ならば機械のマニュアルのような本格ミステリはさすがに書けないだろうと踏んで今回の刊行に期待しておりました。さて、その実はいかがでしょうかまた読んでみたら感想をアップしたいと思っています。

追記:上記の2巻を一気読みいたしました(笑)。頁数にして約1000頁です。そのうち長編が3篇ですが「宿命は待つことができる」が一番面白く一般向きでしょう。天城版「黒蜥蜴」といえばいいのでしょうか?。「マルタの鷹」や「キーラーゴ」といったものが好きだった天城一の面目躍如といった所で、それ+本格ミステリーの興味が追加されています。また「沈める濤」はミステリーというにはかなりしんどい代物ですが、とんでもない力作で、クイーン「九尾の猫」に関する論考は圧倒的で今まで聞いたこともないような切り口が素晴らしいです。「風の時、狼の時」は一種のエスピオナージュもの。これも戦史をからめた珍しい作品です。どれも戦前から戦後にかけての雰囲気をよく描写した作品ですが、最近の作家の作品を読むのになれた方向きではないところがあります。個人的には色々面白い所があって楽しかったのですが、さあいかがでしょう?。われと思わん方はどうぞ!

貫井徳郎「悪党たちは千里を走る」

イメージ 1

イメージ 2

こんばんは、皆様、三頌亭店長です。大体読んでいるにもかかわらず、一度も記事にしてない作家さんを取り上げてみます。貫井徳郎さんの「悪党たちは千里を走る」です。ミステリー関係では「無冠の帝王」(笑)の感がありますが、つまらない文学賞をとって普通の流行作家になってしまっては面白くないなあとか、ファンの人が聞いたら顔をしかめそうなことを考えている三頌亭です。最近では何かと分厚く深刻なお話ばかりを書いていますが、今日紹介する「悪党たちは千里を走る」は貫井さんには珍しく、ぬるい誘拐犯が楽しいコメディタッチの作品になっています。楽しく読めると思います・・といってもリンク先のミステリファンの方々はほとんどお読みでしょう。最近思うのですが、「プリズム」や「被害者は誰?」のような本格よりの作品をもう少し書いて欲しい・・とか考えてます(笑)。

プレストン・スタージェス

イメージ 1

こんばんは、皆様、三頌亭シネマ館です。今日はプレストン・スタージェスの作品を紹介いたします。この方シナリオライターから映画監督に転向して成功した珍らしい方です。喩えていうとベン・ヘクトあたりが映画を監督して成功したといったらいいでしょうか?。スクリューボール・コメディという英語を母国語としない外国人には最もわかり難いジャンルの成功者です。わたしなどはスクリューボールというとホークスの「His Girl Friday」を思い浮かべたりするのですが、スタージェスなんかのほうが有名らしいです。今まで日本ではほとんど取り上げられてこなかったのですが、少し前にプレストン・スタージェス祭などがありまして、何本かのスタージェス作品が廉価版DVDになっています。「サリヴァンの旅」、「レディ・イヴ」、「モーガンズ・クリークの奇跡 」の3本立て1500円でいかかでしょうか?(笑)。悪くないと思います。三頌亭の好みはバーバラ・スタンウィックとヘンリーフォンダの「レディ・イヴ」ですね。

「サリヴァンの旅」 Sullivan's Travels (1941)
「レディ・イヴ」 The Lady Eve (1941)
「パームビーチ・ストーリー」 The Palm Beach Story (1942)
「モーガンズ・クリークの奇跡 」The Miracle of Morgan's Creek (1944)
「殺人幻想曲 」Unfaithfully Yours (1948)
最新コメント
ギャラリー
  • 萩尾望都「11人いる!」&「スター・レッド」
  • 萩尾望都「11人いる!」&「スター・レッド」
  • 萩尾望都「11人いる!」&「スター・レッド」
  • 萩尾望都「11人いる!」&「スター・レッド」
  • 和田慎二傑作選「砂時計は血の匂い」他
  • 和田慎二傑作選「砂時計は血の匂い」他
  • 和田慎二傑作選「砂時計は血の匂い」他
  • 和田慎二傑作選「砂時計は血の匂い」他
  • 花とゆめ・1975年5月5日号
アーカイブ
  • ライブドアブログ