2006年06月

ジョイス・マンスール

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「ジョイス・マンスール。クレオパトラの美貌とサッフォの詩才に生まれながらにめぐまれ、かててくわえて「走高跳と短距離の選手」という超弩級のスピードと翼をも具えた恐るべき近代女性。この奇々怪々なエジプトの令嬢の小説集は、これまで私の読んだどんな女流作家のそれにもまして官能的であり、とりわけ冒頭の「マリー」の一篇は、その包含する世界のスケールの大きさにおいて、男女をとわず古今のあらゆる文学者たちを鼻白ませるていの代物と思われる。」矢川澄子「ジョイス・マンスール讃」より

ジョイス・マンスールの描く世界は女性原理の獰猛な無秩序に満ちています。それは昔とりあげた文庫本の頁から「みだれ髪」の歌がわらわらとあふれだしたときに似ているかもしれません。同じ女性原理の横暴といっても岡本かの子のそれとはやや趣を異にしています。

薔薇十字社版「充ち足りた死者」でジョイス・マンスールを知ってからもう大分の時間が経ちますが、その間、邦訳された本は僅かに二冊(「有害な物語」、「女十態-ジョイス・マンスール詩抄」)でした。彼女の本は私にとって独特の秘密めいた響きを持っています。ベルメールの見事なエッチングのはいった「ジュール・セザール」がいつまでたっても入手の機会に恵まれないのはそのせいかもしれません(笑)。

金子國義「豚とアリス」

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新潮社の「不思議の国のアリス」からの一枚です。これは実は別の絵柄を注文したのですが、違うのがやってきました(笑)。よく買うお店だったのでまあいいかとか思ってそのままにしてあった物です。悪くはないのですが・・・(笑)。

復刻、複製の出来

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。毎度つまらない話題をグダグダいってみたいと思います。最近は活字本というのがほとんどなくなってしまいました。頁を手で触ってみてください。凹凸というものがありません。昔で言うファクシミリですね、最近の本は。

今日は2冊の本を用意しました。1冊目は沖積社の複製本、小栗虫太郎「白蟻」(元版:ぷろふぃる社、昭和10年)と牧神社の復刻本、日夏耿之介「吸血妖魅考」(元版:武侠社、「性科学全集第11巻」、昭和6)です。

「白蟻」は綺麗な複製で活字を組みなおしたわけではありません。どだい旧かなの活字セットなど最近ほとんど残ってはおりません。したがって、底本にした版の印字のかすれとかがそのまま再現されています。

対して「吸血妖魅考」は旧かなの活字を組みなおして出版された物で、底本の誤植を訂正した版です。新しく組み直した活字ですので、かすれなどは一切ありません。正確な復刻本です。

こんなことは言っても詮無いことなのですが、いろんな複製本に対する私の不満です(笑)。とはいえ「白蟻」のようにちょっとしたデザインの面白さとレアリティだけにン十万も払う気力は到底持ち合わせておりませんので、ありがたいことはありがたいです。

追記:日夏耿之介「吸血妖魅考」はモンタギュー・サマーズの「The Vampire in Europe」「The Vampire;His Kith and Kin」よりの抄訳です。この翻訳は日夏の病気のため、多くは弟子の太田七郎によりなされたものです。現在は国書刊行会より再版されています。

小栗虫太郎「白蟻」はぷろふいる社より出たものですが、その後、熊谷書房より全く同じ版を使って同じ体裁で再版されています(昭和16)。元版がここ20年くらいで不必要なまでに高くなったので、より原版に近いものをお探しの向きにはオススメです(1/10位のコスト)。ぷろふいる社の社主・熊谷晃一は後の熊谷書房の社主です。また「白蟻」の装丁デザインは「黒死館殺人事件」(新潮社)と同じく松野一夫です。

いろいろ

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こんばんは、皆様、三頌亭店長です。相変わらずニッチな本の紹介が続きますが、よろしくお付き合いを・・。御用とお急ぎでない方は・・といったところですね(笑)。

ピエール・ドリュ=ラ=ロシェル「ゆらめく炎」(河出書房:昭和42)
これも大戦間の文学のひとつです。ドリュ=ラ=ロシェルはマッコルランやフィッジェラルドのように「狂った歳月」をお祭り騒ぎで生きたのではなく、またラルボーのようにコスモポリタン文芸に傾倒したのでもなく、第一次大戦がもたらした荒廃した精神風土にとどまった作家でした。挙句の果てはナチスに社会主義の影を見出し、賭けに破れ二次大戦終結とともに自殺を選ばざるを得なかったのでありました。

「ゆらめく炎」はまさしく自殺していく男の話です。一般にはルイ・マル監督の「鬼火」の原作といったほうが通りがいいでしょう。フランス本国ではコラボトゥール(対独協力)の作家ですのでもう古書のみです。今後新訳が出るとは思えません。酔狂な方はお読みになってもいいかもしれませんね。河出書房の「人間の文学」シリーズはミラー、サド、ジュネ、レアージュ、ナボコフ、マンディアルグ、ニン、バタイユと大変前衛的な海外文学を早くに紹介したシリーズでした。

スタンリー・ワイントラウブ「ビアズリー」(中公文庫)
日本でビアズリーが美術史家の間でまともに扱われるようになったのは意外に遅くて1970年代からでしょう。以前はビアズリー伝というと数えるくらいしかなかったのです。ケネス・クラークを始めとしていくつかのビアズリー伝がありますがワイントラウブの「ビアズリー」は正に決定版といっても異を唱える人はありますまい。世紀末のイギリスの文芸、絵画、演劇を縦横無尽に使いながらビアズリーの短い生涯を描きます。また、新しい資料を駆使した驚きのエピソード満載です。ファンの方はぜひ御一読を、大変面白いです。

大庭柯公「江戸団扇」(中公文庫)
大庭柯公(大馬鹿公)はロシアに消えた明治、大正のジャーナリストでした。あまり聞かない名前かもしれませんのでネットからその略歴を記します。

「柯公は明治五年(一八七二)傳七の三男として惣社町(山口県)で出生 柯公は雅号で名は景秋十三歳で父を失い小学校卒業と同時に太政官の給仕となり自学自習に励む さらに二葉亭四迷らとロシア語を学び 二十三歳でウラジオストックに渡りロシア商会員となる 乃木希典の紹介で日露戦争に陸軍参謀本部通訳官として従軍 その後大阪毎日・東京日日・朝日・読売などの各新聞社に記者として在職しジャーナリストとしての地歩を固めた また随筆や自己評論などの文筆活動に励むとともに しだいに社会主義思想に傾斜していった 大正十年五月革命後のロシアを見聞すべくモスクワへ旅立つもスパイ容疑で投獄 翌年釈放されたが消息を断った 平成四年十月ロシア政府により名誉回復が決定した。」

以前、辻潤が鏡花のファンだったというお話を紹介いたしましたが、社会主義者・大庭柯公と江戸趣味というのも現代からは想像しにくい取り合わせかもしれません。しかしこれはかの時代にあっては彼らを養った背景みたいな物でしょう。大庭柯公の「江戸団扇」は明治、大正の東京の風俗を活写した優れた随筆です。

尾崎久彌「綵房綺言」

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尾崎久彌は名古屋の人です。江戸文芸、浮世絵の研究家&蒐集家でした。現在新刊ではこの人の本は出ておりません。いまさら誰が読むのでしょう?といったところの人です。以前、「粋人酔筆」というシリーズを紹介いたしましたが、彼の随筆は「粋人酔筆」を少し上品にした物、といったところでしょうか。その方面の知識は現物で鍛えているので大変正確ですが、ちょっとあぶな絵風の随筆といったところです。

写真は「綵房綺言」(春陽堂:昭和2)で雪岱の装丁になる木版装です。これも学生のころ買った懐かしい本です。今でも安い本ですので雪岱装丁の入門書として適当でしょう。今となってはこんな随筆も書ける人がいなくなりました。中公文庫あたりが再版してくれるとファンが出来るかもしれません(笑)
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