2006年03月

サディ・ブラッケイズ

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サディ・ブラッケイズ(Sadie Blackeyes)という匿名作家がピエール・マッコルランの変名であることを知っている方は相当酔狂な方です(笑)。昨今、出版社のほうも安く出せる変わった版権はないかと大変らしいです。そういったいいかげんな出版の中からたまに面白いものが出てくるのを探すのは大変楽しいことです。

「アリスの人生学校」(学研:2002)はマッコルランがサディ・ブラッケイズの変名で書いた「鞭打ち小説(フラッジ)」です。一応、ポルノグラフィの範疇に入れられることが多いのですが、昨今の官能小説などのつもりで読むと全く当てが外れます。描写は現代の小説の方がはるかにハードです(笑)。

ヴォルテールの「カンディード」と中世の家政論「ル・メナジエ・ド・パリ」を換骨奪胎して書かれたこの作品は非常にウイットに富んでいます。大きく分けて「純潔教育」と「貞操教育」からなる2章は鞭打ちを性愛に置き換えた秀逸なエロティック文芸となっています。

翻訳は吾妻新(匿名)が雑誌「奇譚クラブ」に載せたものの再録で、英語版からの重訳ですが、大変読みやすいです。出来ればマッコルラン名義の「女騎士エルザ」や「国際的ヴィーナス」などの主要作の翻訳を出版して欲しいと思います。
http://blogs.yahoo.co.jp/kms130/20276324.html

「小遊星物語」と「カシオペアのΨ(プサイ)」

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今回は少し気分を変えて、異世界もののスペース・ファンタジーを取り上げます。ただしこれから紹介する2作品はその規模と程度において他を圧倒する力作で破天荒なロマンであります。

まずはタネさんご推奨のパウル・シェーアバルトの「小遊星物語」です。冒頭に曰く「空はすみれ色だった。星は緑色だった。そして太陽もまた緑色だった」。のっけからすごいお話ですが全く人間が出てこないエイリアンのみのスペースファンタジーです。特に他の作品に見られない部分は未来派を思わせるガラスの大建築です。これだけでもかなりビジュアルなイメージを刺激いたします。パラス星の政治、文化、芸術、風俗と星の全てを詳述し、その運命について語る本作は類例のない未来小説です。

次はレイモン・クノーによって発掘されたド・フォントネーの「カシオペアのΨ(プサイ)」です。ウェルズやヴェヌルに先立つ先駆的SF作品が「カシオペアのΨ(プサイ)」であります。小ロマン派といいますのでネルヴァルやゴーチエといった時代に書かれたことに留意してください。これもまた壮大なスペース・ファンタジーで一個の惑星の全てと運命について語った傑作といえます。現在からみると科学的な叙述は古さをぬぐえませんが、その想像力は驚嘆に値します。

テキストは「小遊星物語」が平凡社ライブラリーに収められています。「カシオペアのΨ(プサイ)」は国書刊行会の幻想文学大系・第2期(第20巻)によってはじめて紹介されましたが、現在品切れ中です。図書館もしくは古書でどうぞ(廉価です)。

聖餐城

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河出書房新社の「今日の海外小説」と「モダン・クラッシックス」のシリーズは当時よく読んだ翻訳シリーズのひとつです。現在はもう絶版になったものが多いのですが、特色のある翻訳が収められていて楽しいものでした。

そのなかのひとつベルナール・ノエルの「聖餐城」は倒錯型の教養小説の典型です。主人公はエロティックな数々の儀式を通してあたかも肉体が消滅してしまうような高みに登りつめることを目指します。この本は「イギリス人」の作者、ピエール・モリオン(A・P・D・マンディアルグ)への献辞が付いているほか、様々な文学的パスティーシュに満ちております。ハガード、マラルメ、ベックフォード、ネルヴァル、ランボーなどなど・・。

ベルナール・ノエルはバタイユ作品の綿密なエディション・クリティックを行ったことで知られる作家で本邦への紹介はこれが初めてだと思われます。本作「聖餐城」は初めエルバン・ドルラックの匿名で出版されましたが、その後(1971)、J・J・ポーヴェール社より初めてベルナール・ノエルの名で出版されました。今日ではエロティック文芸の古典の仲間入りを果たした作品と言って良いでしょう。

水上瀧太郎

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最近、忘れたように水上瀧太郎の「貝殻追放」が岩波文庫に収められました。「三田文学」系の作家なんですがもうほとんど日があたりません(笑)。「三田文学」の作家達は荷風を筆頭として非常に無駄のない枯れた文体を基調としているのでどうしても現代では受けが悪いようです。

一番傑作なのは松本秦&恵子夫妻で文学系の人からは「探偵小説を書かなければもっといい作品を残しただろうに・・」といわれ、推理小説系の人から「つまらない文学的小説を書かなければもっといい作品を残しただろうに・・」といわれて、ある意味散々な人たちです(笑)。できれば「三田文学」を主軸とした未収録アンソロジーみたいなものが出来ればいいなと勝手に思っています。

写真は水上瀧太郎「月光集」(大岡山書店:昭和4年)で装丁は小村雪岱です。大分色がはげてるのが残念です。書き込みは久保田万太郎の自筆で「律子と瑞枝」(昭和9年:創作座、飛行館上演)のための台本の推敲です。

イオネスコ「Le divan」(1981)

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イオネスコが1981年に出版した写真集「Le divan」(寝台椅子)の全12葉です。たまたま通りかかった2人を撮影したとのこと。ポートフォリオと解説が付いています。カメラはおそらく35mmフィルムカメラを使っていると思われます。
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