2005年11月

ムッシュ・オグリ

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「おぐりちゅうたろうって何の作家?」とカミさんがのたまった(笑)。トッポジージョ(古っ)じゃあるまいし。「それはおぐりむしたろうって読むんです」・・・。というわけでやっぱり今日は小栗虫太郎です。

推理小説の世界では何をかいわんやの有名人なので解説は省きます(笑)。個人的な人となりは割りと好きな作家で、近松秋江のようなことはございません。でその作品や如何?

実は理系の商売をやっている割には、ちょっと凝った推理小説のトリックになると殆ど理解不能というスカスカの脳細胞の持ち主なわけですねえ、私は(爆)。例えばカーなんかは「皇帝の嗅ぎ煙草入れ」ぐらいが関の山、最近出た「第三の銃弾」なんかは何が凄いのか何処がトリックなのかよくわからん・・というような体たらくです(笑)。

したがって小栗虫太郎の小説なんかはどこが推理なのかトリックなのか殆ど分からないわけで、「きゃー!、法水さんてカッコイイ」とか「薀蓄スゴーい!」の世界でありまして、わたしにとってはもっぱらその雰囲気を楽しむ小説なのであります。

この人に関してはネタバレも何もあったもんじゃございませんので、例えこの人が犯人だなんて説明してもらってもわかりません(爆)。そんな私が選ぶ小栗作品はなんでしょうか?

えーまず、「白蟻」(なんとか防虫とか連想してはいけません(笑))「完全犯罪」、それと本格以外の秘境もの冒険ものですね。因みに「黒死館殺人事件」なんかは、黒死館の珍奇な調度類を見ながら薀蓄を聞いて廻るのが主たる目的なので何処から読んでもよろしいです(笑)。

とはいうもののこのタイプの作家は他にはいないユニークな人です。肩肘はらずに拾い読みからはじめるというのが小栗作品に親しむ一番の手ではないかと思っております。

ところでテキストですが、沖積社から桃源社版の複製本が出ておったのですがまた品切れらしいです。そこで古書ですが桃源社版を入手するのがいいかもしれません。写真は桃源社版の3種です。お薦めは箱入りでないタイプのものが長持ちしやすくいい本です(比較的安い)。また、昭和ミステリ秘宝より「二十世紀鉄仮面」(小説+雑文集)がでておりまして、これと合わせますと現在読むことの出来る小栗作品のほぼ大半ということになります。

幻影城の思い出

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私が高校生の頃創刊した雑誌で、創刊から終刊までを見取った思いで深い雑誌でした。この雑誌は古書店を経営していた島崎博氏による責任編集で個人誌の趣が強かったものでした。紀田順一郎氏が言っていたのだったか記憶が定かでないのですが、当時最高といわれた島崎博氏の膨大なコレクションを遺憾なく駆使した雑誌で今後もこのようなものはなかなかでないのではないかと思われます。

大変好評をもって迎えられた雑誌でしたが、単行本を出版し始めた頃から事態は思わぬ方向へ向かい始めます。皆さんはアンカット製本というのをご存知でしょうか?ペーパーナイフで頁を切って読んでいく本です。大変凝ったフランスタイプの製本をしたまではよかったのですが、取次ぎ店の方たちは殆どが乱丁本と思い返品してきたらしいです。このため経営が左前になりついには終刊という事態になってしまいました。

当時、最高といわれた探偵小説コレクションは幻影城と共に逸散してしまいました。今後もこのようなコレクションはもうでないだろうと彼を知る人たちは伝えております。「蔵書一代」と心得よ・・・ということではありますまいか?(笑)。

この雑誌からは広告も含めて様々情報を得ることが出来ました。読書の道筋には色んなものがあるのだということや、現在は埋もれているたくさんの本があるのだということを実例を持って示してくれた雑誌でした。

写真は幻影城の一部です。実は創刊から出そうと思ったのですが、整理が悪くどのダンボール箱か分かりません(爆)。また今回はテキストが新刊ではありえないのでご勘弁ください。以上2点申し訳ありません(笑)。

神州纐纈城

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高校時代の友人に伝奇小説が好きなのがいて読まされた本です(笑)。その頃の私は伝奇小説なんかに興味は殆どなかったので、彼がいなかったら行き会わない本だったかもしれません。

国枝史郎については青空文庫もしくは専門のサイトなどがございますので、随時参照ください。この「神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)」、世評では日本伝奇文学史上屈指の傑作ということになってます。

未完のため長らく纏められる事がなかったのですが、桃源社より完全復刻版が出版されそれが今日流布しておりますテキストになってます。あまりか顧られない業績ですが、復刻を手がけた矢貴昇司の熱意と慧眼は讃えられてよいと思います。

また、三島由紀夫がこの作品を激賞したことは良く知られておりまして(「小説とは何か」)、これを読んで「神州纐纈城」を読まない人がいたら本を読むのが嫌いな人ではないかと思います(笑)。

ところでこの作品面白いことは珍無類なのですが、異様なテンションの高さが延々と続きまして、私などには少々疲れてしまいます。力の抜き所がないというか、全編アドレナリン沸騰(笑)という感じですね。

病跡学(パトグラフィ)というジャンルがありまして、これは創造性の特徴を病気という面から説明しようとする学問です。私はあまりこういうのは信用しているわけではないのですが、国枝史郎については当たっているのかも・・と時々思います(国枝史郎はバセドウ病だったといわれていました)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%BB%E3%83%89%E3%82%A6%E7%97%85

とはいうものの国枝史郎は伝奇小説の書き手としては有数の名手であります。牧逸馬さえも「国枝史郎はすばらしい」といったことを晩年もらしていたと言われております。結局、私は国枝史郎伝奇文庫を全部読んでしまいました。不思議な作家でしたね。

テキストは様々なものがありますが、未知谷出版の「国枝史郎伝奇全集」全7巻と「国枝史郎探偵小説全集」作品社をあわせて国枝史郎の作品をほぼすべて概観することが出来ます。国枝史郎伝奇文庫のカバーイラストは横尾忠則でなかかなかの出来でした。

紫陽花舎

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文筆家が本業ではないのですが、生半な作家連中よりはるかに上を行く作品を残した人たちがいます。鏑木清方(かぶらききよかた)もそんな中の一人です。この方の画業については大変よく知られておりますので下記のサイトなどを参照していただくとよろしいです。
http://kamakura-arts.or.jp/kaburaki/
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/collection/item/J_83_386_J.html

鏑木清方の父親は條野採菊といいまして、仮名垣魯文らと共に戯作者として活躍し、「東京日日新聞」「やまと新聞」の創始者でもありました。清方はもともと画家となるか文筆家となるか悩んだと言いますので若いときからかなり筆のたつ人であったことは間違いないようです。

私がはじめて読んだのは戦前出版されました「築地川」や「柳小紋」といった本で、季節感のある非常に落ち着いた文章が印象に残っております。書き手が全面には出てこないので最近のものを読みなれた方には少し物足りなく感じるかもしれません。

ところで鏑木清方の友人の中には岡本綺堂や岡鬼太郎がおりまして、3人とも本業は小説家ではないのが大変面白いです。実は私がこういった人たちが書いた文章を好みなのかもしれません。

表題の「紫陽花舎(あじさいのや)」とは木挽町にあった清方の自宅のことで、若いときに見た紫陽花で囲まれた洋館に感銘を受けこのように自宅を名付けたといわれております。

テキストは現在こちらに良い所がまとめられております。
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/31/3/3111610.html
写真は岡鬼太郎「二筋道」(明治39年隆文館)の木版画口絵です。清方が好んで描く女性の特徴がよくでているのであげておきます。

通販紙魚生活

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「同病相憐れむ」などと申しまして、脛に同じ疵を持つもの同士慰めあうのも世の常かと思います。ある日、行きつけの古書店へいくと、「涙が出ちゃうよ~、一度読んでみて!」と店のご主人から渡されたのが今回紹介する横田順彌さんの短編「本の虫」です。

一言でいってカフカの「変身」とウルトラQのカネゴンを合わせた様な作品となっております。少々ネタばれ気味ですが、まあバラしても面白さは変わりませんのでご勘弁ください。

飛行機関係の古書を集めることが趣味の主人公の青年はいつのまにか自分が大きな紙魚になっていることに気がつきます。さて紙魚になった主人公のセリフは・・。。憶えのある人には涙無しでは読めません(笑)。わけても傑作は主人公の主食は古本の頁であるところです。高くて古いやつほどおいしいんでしょうねえ(笑)。

さて、作者の横田順彌さんは「日本SFこてん古典」などで有名なSF作家です。最近では日本のSFの走り「海底軍艦」の作者、押川春浪などを取り上げたりしております。

小さい時に先生によくこう言われた方も多いと思います。「本をたくさん読むとりこうになってえらくなれるよ」・・・私はたくさん読んだつもりなんですが利口にもえらくもなれませんでした(爆)。紙の味は少々分かるようになりましたが・・(笑)。よいこの皆さんはそこのところをお間違えなきよう、よりよき人生を歩んでいただければと思います(爆)。

写真は「月刊小説」1992年11月号に掲載時のものです。現在はちくま文庫「古書狩り」に収録されております。
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